|
第三話「眠れぬ夜…」 8/'93
みけちゃんは覚えてますか?
私はあの場所の前を通る度に思い出します。
よく、楽しそうにご主人様とドライブしている犬を見かけます。
それはお天気の良い休日に、海へ向かう車に乗った精悍な顔つきの黒いラブラドール
だったり、
作業着姿のおじさんと一緒にトラックに乗ってる、優しい目をした雑種だったり、
はたまた、銀行の駐車場でキョロキョロそわそわしながら、
クルクルパーマをかけたご主人様を待つマルチーズだったり…
きっとどの犬も、ご主人様が車のキーを手にした瞬間、玄関へ先回りして、ちぎれんばかりに
しっぽを振ってお出かけを喜んでるんだろうなぁ。
みけも一緒にドライブに行こう〜♪
外の世界での楽しいことを、たくさん思い描きながら走ったのはわずか5分。
ちょっとお買い物、とドアを開けたその一瞬の透きに、車に乗りつけないみけちゃんは、
スルッと脱走してしまったのです。
さあ大変!
走る走る、この時ばかりは大草原を走るトラの様に素早く逃げ去るみけちゃん。
「待って、待って〜、どこ行くの〜?」
必死の呼び掛けに一瞬立ち止まり、振り返ったその顔を私は今でもハッキリ覚えています。
驚きでまんまるくなった瞳孔、何かトラウマとなる同じような出来事が以前にもあったのか、
私には知る由もないけれど、その目は「おかあさん、どうしてこんなことするの?」
と悲しそうに語り、やがて草むらへと姿を消してしまいました。
「みけ〜、みけちゃーん」
とぼとぼ。
車の下、物かげ、猫が好きそうな狭い空間をチェックしてると、
何匹かの野良猫に出会いました。
「みけちゃん見かけなかった?」
「・・・」
どぼとぼ。。
何処へ行っちゃったんだよぉ〜
だんだん暗くなる。
とぼとぼ‥ とぼとぼ…
そして次第に夜も更け、後ろ髪を引かれながら帰宅。
猫用の食器がさびしく迎える。
小さな猫がいなくなってがらんとしてしまった室内と心、
その大きな存在を改めて思い涙ポロリ…。
野良犬に追い掛けられてないかな、カラスに意地悪されてないかな、車にひかれでもしたら、
こんな時、どうして悪いことばかり思い浮かぶのか、不安を募らせる脳の回線を恨む。
眠れにゃい…。
翌日は少し行動範囲を広げ、似顔絵付きポスターを貼りながら探し続けるも、
お目当ての猫は見つけ出せず、昨日よりさらに落胆しながらいったん帰宅。
Zzz…
カチャ
玄関の扉が開く音で目を覚ますと、そこには見慣れた三毛猫が!!
ー*ーー*ーー*ー
みけのお父さんは、私が疲れてうとうとしてしまった間に天の声を聞いたそうです。
その声に導かれながら、もう一度脱走現場に戻ってみると、
すぐ近くの受水槽の下から「にゃ〜ん」と姿を現したそうです。
メデタシ・メデタシ
さて、猫は家に付くと言いますが、その家に居着いた猫が、ある日突然フラッといなくなってしまった時、どこかの地方では「猫山参りに行った*げな」と言うそうです。
*げな=そうだ、らしいよ
「猫山」そこは鍋島の猫騒動に登場したコマような、数奇な運命を辿った猫たちが行き着く先なのでしょうか?
それとも、竜宮城みたいに鯛やヒラメがわんさか泳いでいるパラダイスなのでしょうか?
いつかゆっくり、聞いてみたいと思います。
つづく…
次は<第四話:病気になっちゃた>お楽しみに〜。
|